今週のお題「最近おいしかったもの」
「魚屋」の冠を屋号に持つ居酒屋で、僕はバイトをしている。
個人経営の小ぢんまりとしたお店は、毎日数人のバイトと店長で回っている。
「飲食バイト」というと敬遠されがちだが、このお店、毎日賄いがつく。そして魚屋のそれは苦学生にはとても勿体無いと同時に、貴重な栄養源なのだ。
足早に秋は過ぎ去ろうとしているが、今の季節は戻り鰹が旬である。
魚屋が朝方仕入れた鰹の刺身がその日の賄いであった。
腹に蓄えたゆたかな脂肪は白くてらてらと光り、刺身をちょいと付けた醤油には薄い油膜が張った。
一口で、頬張る。
「んめぇ〜〜」
ヤギさながらの間抜けな声が出た。
魚の臭みは少なく、油分の甘さが滲む。
新鮮で真っ赤な切り身は、これが間違いのない上等な鰹であることを物語っていた。
ゆっくりと、しかしあっという間に、僕は鰹を平らげた。
「ご馳走様でした」
そうして思わず続けたのだった、
「来世も美味しい鰹に生まれてください、そしてできればまた私の腹の中へ」
追記: 共に造って頂いた秋刀魚の刺身も無論美味い。しかしこの鰹を前に、名脇役に成らざるを得なかったのだった。