#深夜の俺の戯言

昼間の戯言でも深夜テンション。

新しい靴を一足買った。

新しい靴を一足買った。

赤くてスモーキーなヤツだ。

前々からそんなデザインのものが一足欲しかった。¥6,800だった。

 

これを履いてこれから出掛ける。靴を変えただけでこんなにも出掛けるのが楽しみになるのは何故だろう。

 

行き先は新宿、高校の同窓会。成人式以来の100人超規模の会合だ。

家を出るまえ、こんなにも着ていく服に迷ったのはいつ以来だろう?

 

普段は全くもってファッションには無頓着だ。だからこそ持っている服がないということもある。が、それにしてもだ。

 

舐められてはいけない、恥をかけない。

率直にそう思った。俺も大人になった。

 

6年前の卒業式で「サヨナラ」してから各々違う道を歩んできた。そして再開する今、最早我々は互いに他人、真っ新な状態だ。

 

だからきっと、互いの背景を推察し、その6年を補完するための材料が「服」なのだ。

 

私はかつての私のままでいたかった。成長の跡は感じてもらいたいが、「変わらないね」と言われたかった。

つまり、あの日の私をそのままリニアに6年ぶん外挿して、その振れ幅の不確実性の中に私はいたかった。

 

そしてそれはかしこまってジャケットを着たり、ネクタイを締めたり、七三分けにしている俺ではない。

 

浮き足立って、斜に構えて、常識に唾を吐く。

そんな高校生が多少マイルドになった自分を演じたかった。

 

だから新しい靴を一足買った。

 

黒でも茶でもなく、赤いスモーキーな靴は、その今の自分の感覚にぴったりだった。

 

少しだけ高くなった踵は、少しだけ私に勇気をくれた。

舐められること、恥をかくことが恐ろしかった。皆に会うのが楽しみな反面、自他の変化を互いに受け入れることが恐ろしかった。

 

みんな、少しずつ汚い大人になってるんだろうな、と妄想し、ひとり勝手に悲しんでいる。

 

「今なにをしていて、弊社ではどこで、あ、名刺渡しておきますね、残業が忙しくて睡眠時間が少なくて、結婚なんてまだまだで、でもこの前出会い系であった人がよくて、あなたはどうなの?」

 

多分みんな、前を向いているんだろうと思う。

 

きっと私はまだ、過去に囚われている。

 

無論、日々の生活の中で、労働の中で、過去を思い返して感傷に浸っている暇はない。

だけど、彼らの前で被るペルソナは当時の私たちの共有物のままであって欲しい。

Facebookの友達サジェストで出てくる「友達」の楽しそうなトプ画を見ては少しだけ鬱になる。

 

どこか自分に負い目を感じているのだろうか?

学生時代に何もなさず、何も生産せず、なんのスキルも得ず、のうのうと鼻水を垂らしているだけのうんこ生産機の自分に。

 

 

自ずと下を向くと、買いたての靴裏のラバーが駅ビルのフローリングに擦れ、キュッキュッと鳴っている。

違う。何もしていないわけじゃあない。

俺は勤労し納税している。国民の義務を果たしている。スプラトゥーンに熱中し世界2000位くらいの腕前だ。競馬では7万勝った。曲だって2曲書いた。レンタカーでオーストラリアを縦断した。…いやまあ確かにロクなことはしていないが、それでも健気に生きている。

 

なあんだと、胸を撫で下ろす。

 

でも、マウントの取り合い合戦は嫌だな。

みんなの面白い話を、身の上を、SNSには書いていない当時のままの無垢な笑顔で、ただ聞きたい。

 

5cmほど盛れた目線からみる景色は普段とあまり変わらなかった。俺は前を向いていた。

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